国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)とは、『全世界共通の会計ルールの設定』を目的に創設された国際会計基準審議会(IASB)が設定する会計基準をいいます。
現時点において、このIFRSを自国の会計基準として採用しているか、又は、将来採用しようとしている国は、およそ100カ国に達しており、特にEU諸国においては、すでにほとんどの公開会社がこのIFRSに準拠した決算を発表しています。また、アメリカでは今後最短で2014年からの適用が、そしてわが国においては2010年3月期からの任意適用期間を経て、最短で2015年からのIFRSの適用が予定されています。
しかしながら、IFRSと日本基準との間にはかなりの相違点があり、これらの会計基準の移行には、そのための事務・管理など作業(システムの構築など)のためにかなりの労力が費やされるといわれています。
その中でも特に日本基準との違いが大きく、その取扱いに注目の集まっているのが『有形固定資産』です。
日本基準において有形固定資産に関する会計処理のほとんどは、法人税法(税法基準:国が定めたルール)に依拠している部分が多く、上場企業における会計監査ですら、この税法基準によるところが大きいとされています。例えば、平成19年度税制(法人税)改正によって有形固定資産の残存価額が廃止されたと同時に、会計監査の実務指針において税制改正の内容がそのまま踏襲されてしまったことは記憶に新しいところです。
さて、有形固定資産におけるIFRS(IAS16号)と日本基準との大きな違いには、下記の3点があります。
私たちは、この3点のうちの『(3)減価償却の方法及び単位』という項目に特化したサービスのご提案を致しております。(特に『減価償却の単位』に注目しています。)
減価償却におけるIFRSと日本基準との違いは以下の表のとおりです。
IFRS(国際財務報告基準) | 日本基準 | |
---|---|---|
減価償却方法 | 経済的便益を消費されると予想されるパターンを反映した方法 | 実務上、法人税法の規定に従った償却方法を採用している場合が多い |
耐用年数 | 使用が見込まれる期間 | 実務上、法人税法の規定に従った耐用年数を使用している場合が多い |
残存価額 | 耐用年数到来時点でその資産から受領できる価額 | 実務上、法人税法の規定に従った額を使用している場合が多い |
減価償却単位 | 重要な構成要素ごとに細分化する (コンポーネント・アカウンティング) |
法人税法には規定がないが、実務上は 減価償却方法または耐用年数別に区分 している場合が多い |
この会計基準の違いを詳しく見てみますと、IFRSの方では、有形固定資産の所有者である企業側に「固定資産の実態を財務諸表によりよく反映させる」ための、ある程度の裁量(独自のルール作り)が与えられているのに対して、日本基準の方では、独自の見積もりなどはほとんど許されておらず、統一的な処理基準(法人税法)をすべての企業にあまねく適用しようとする姿勢を感じます。
IFRSでは、個々の有形固定資産の実情に合った「経済的実態に基づく計算方法(ルール)」の策定をそれぞれの会社に求めているので、IFRS導入後は、単に税法や会社法に定められた計算を行っているというだけでは、減価償却計算の妥当性を説明することができなくなります。つまり、減価償却についてのルールを会社独自に創造しなければなりません。
この点に関して、Seamus Moran氏(アメリカ公認会計士:IASB討議グループ委員)は、「欧州企業の経験を踏まえていうとIFRS適用で大きな問題の一つとなるのは、固定資産をいかに管理すべきか」ということであり、「有形固定資産を構成要素ごとに測定、評価するという“資産のコンポーネント化”が欧州企業にとって多くの業務課題になった」ことを指摘しています。そしてMoran氏は「IFRSでは固定資産として認識する要件は示しているものの、個別具体的な項目は一切規定していないため、企業みずからがそれらの要件にもとづいて、独自に判断する必要がある」ため、「できるだけ早期にコンポーネント化のポリシーを策定すべき」との提言を行っています。
「減価償却の単位」に関しては、現行の法人税法(日本基準)にもはっきりとした規定が存在しないため、IFRS導入時には、新たな対応が求められる項目になります。
例えば、償却単位に関する考え方ついて、IFRS(IAS第16号第43項~44項)では次のように謳われています。
これはコンポーネント・アカウンティングという減価償却単位に関するIFRSの考え方を示した一文です。
確かに、航空機の機体部分とエンジン部分とでは、実際の費消(消耗)パターンや使用可能(更新)年数はそれぞれ違ってくると思いますし、また、機内のシートやテーブル、トイレなどにいたっては、そもそも航空機とは全く異なる性質の部分です。例えば、航空機の機体部分がおよそ10年で使えなくなるとして減価償却を行っていても、エンジン部分だけは5年ごとの更新が必要であったり、また客室内のシートは3年で交換されたり・・・などといった場合には、同じ1機の航空機でも、それぞれの部分を個別の資産として減価償却を行う方が、固定資産全体の実態(ライフサイクル)をより的確に反映できることになります。
最近の例としては、全日本空輸株式会社が、平成20年3月期の中間決算において、航空機に関する資本的支出部分の減価償却について、コンポーネント・アカウンティング適用による臨時償却費(過年度減価償却不足額)223億円を特別損失として計上しています。
ただIFRSでは、コンポーネント・アカウンティングを適用すべき固定資産の対象を、航空機にだけ限定しているわけではありません。そのように考えますと、企業が所有している有形固定資産のうち取得価額が大きく、かつ、複数のライフサイクルを持つ構成要素がひとつの物体として認識されている固定資産、すなわち『建物・建物附属設備』にこのコンポーネント・アカウンティングの考え方をいかに落とし込んでいくべきかということが、企業の財務諸表やこれらに付随する投資意思決定データに与える影響から考えても、必然的に重要視されることになります。
そこで問題となるのが、建物・建物附属設備の各構成要素の把握です。
建物等の構成要素には、躯体・外装・内装・建具などのほか、給排水衛生設備・電気設備・昇降機設備などがあります。また、例えば1つの建物が複数の用途にわたって利用されている場合などには、たとえ同じ材質のもので作られている部分であったとしても、こんどはそれぞれの用途(事務所・店舗・食堂・住居など)や消耗頻度によって別々のライフサイクルを持つことになります。
私たちは、建物や建物附属設備についてのコンポーネント・アカウンティングの適用に関して、税理士(税法)、公認会計士(監査)、不動産鑑定士(評価)などの文科系の専門家だけではなく、一級建築士・技術士(建築・設計図面・積算)などの技術系の専門家と連携を図ることによって、IFRSが要請する「会社独自の減価償却のルール」の策定を支援いたしております。